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であった。
儺戯には、法事に当たる部分と仮面戯の部分があるが、法事のなかに仮面が用いられることもある。また数多い仮面戯の演目のなかには漢族の地芝居の影響を強く受けたものも多く、それらは独自性がなくつまらないといわれることもある。ただ、「李龍」「開路」「開山」などは、原初の仮面戯かとおもわれるもので、仮面戯の部分が単なる娯楽だとはいいきれない。
察壇は屋内に設ける。正面に儺公、儺母の木像を置き、その背後、上部には左から玉清・太清・上清を描いた三清図が掛かっている。土老師は儀礼のはじめは、いつも、この祭壇に向かって立ち、そこから右回りに動いて「五方」を対象とする。また左奥には、土老師たち

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?師壇図。土老師は神々を呼んだ後に、巫としての先霊に加護を祈る。そのためにこれをしつらえる。先霊の図像の下に各々の名が記されている

 

の先生たちをまつる「師壇」がある(写?)。
張毓福氏によると儺公、儺母はもと、実の兄と妹で洪水の際に逃れて、のち人間をはじめて造ったとされる。これとは別に、前引度修明氏によると、恋愛を阻まれて川に投身した男女のことであるとか、あるいは王により殺された男女であったが、のちに民衆の間で手厚く弔われ、霊験を発揮したことから、広くまつられるに至ったという伝承もある。こちらの伝承によると、かれらの死霊が地域住民に災いをもたらすということがはじめにあり、これを除くためにまつられたという性格が強くうかがわれる。現在では、所願成就ののちなど慶事にも願ほどきの儺戯をおこなうが、もとは危機克服のためのものであったのだろう。いずれにしても、土老師たちが直接、向き合っているのは、この男女のカミで、これは祭儀の最終段階で、送り返される(後述「游健渉海」)。

儺戯との出会い

三日間の祭儀の題目とその要点をできるだけ簡潔に記したものが以下の次第一覧である。ここでは紙幅の関係から、とくに印象的だった点をいくつか選んで記しておきたい。
次第一覧
1開壇(11月18日)…楽器は銅鑼(大、小)、太鼓、牛角。土老師は頭扎をかぶり、師刀を携え、肩には排帯を載せる。カミを招く序曲。一人舞。唱えごと。メリハリのある踊りと表情で観客をひきつける。土老師の立つ莚は九州(世界)を表す。2発文敬寵(写?)…冉氏一家の祈願を功曹を
通して天界のカミに伝え、ついで大どころで寵神をまつる。3塔橋…カミの来臨のための橋掛け。橋安(巻物に絵をかいたらので儺神界を表現写??)を広げる。カミは天、海、山を越えでやってくる。同時に、橋には鬼がつきまとうのでこれを払う(写?)。僑には門があり、カミが着座したのち、神送りのときまで門を閉め、儀礼の最後に橋を外す。この橋掛かりとカミ来臨の形は比較の観点から注目される。4立楼…カミのための高殿を作る。木を切って楼を作るさまをたのしげに演じる。5造席…張毓福氏の筵を携えての軽妙な踊り
(写?)。カミの座作り。同時に鬼を払いのける唱えごと。神を座につかせるという発想は済州島のカミの訪れ方と同じで注目される。6安営扎寨…五方に軍営を設け、鬼を払うという内容の唱えごと。7和会交標(11月19日)…儺戯にくるカミ(上元36神、下元24神)の和会。カミの由来をおどり、かたる。交標童子、交標小姐(若いむすめ)、和尚(写?)の三人による仮面戯が含まれる。交標は細い棒をカミの数だけ作って束ねたものである。8差発五猖兵馬…ここで、「小山」という名の小さな人形が持ちだされ舞わされる。

 

 

 

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